技術情報メモ68Technical information
68)設計の勘どころ(ウェーバー・フェヒナーの法則−感覚の定量化の試み)
ウェーバー(Ernst Heinrich Weber)は、1834年に行なった錘を持ち上げる実験で、錘の重さの変化を感じ取る感覚は、何g増えたかといった差ではなく、何倍になったかという比に依存していることを示し、
次式(1)の関係(ウェーバーの法則)を発見しました。
ΔS(弁別閾)/S(刺激強度)=C(定数) ーーー(1)
例えば、100gの錘を持ち上げた場合、10gの変化を感知できる人は、
200gの錘を持ち上げた場合、20gの変化を感知できます。
後に、弟子のフェヒナー(Gustav Theodor Fechner)は(1)式を基に、「感覚量は刺激強度の対数に比例する」
ことを証明し、
次式(2)の関係(ウェーバー・フェヒナーの法則)を得ました。
E= ClogS ーーー(2)
E:感覚量
S:刺激強度
C:定数
例えば、100の刺激が倍に増加して200になるときの感覚量の変化と、200の刺激が倍に増加して400になる
ときの感覚量の変化は等しいということです。
ΔE(200-100)=Clog200−Clog100=Clog(200/100)=Clog2
ΔE(400-200)=Clog400−Clog200=Clog(400/200)=Clog2
ウェーバー・フェヒナーの法則が成り立つ「感覚量」として、重さ以外にも、明るさ、振動(音)、味、匂いなどが考えられるとしています。
例えば、天文学者ポグソン(Norman Robert Pogson)は、1等星の平均的な明るさと、6等星の平均的な明るさの差が約100倍であることが観測によって分かったので、
「100倍の明るさの差を5等級の差とする(1等級が100^(1/5) ≒ 2.512倍に相当する)」と定義しました。 この定義によると1等星(100),2等星(39.81),3等星(15.851),4等星(6.31),5等星(39.81),6等星(1)となり、各等級の明るさの差は以下のとおり求められます。
ΔE(5-6)=Clog2.512−Clog1=Clog2.512
ΔE(4-5)=Clog6.31−Clog2.512=Clog2.512
ΔE(3-4)=Clog15.851−Clog6.31=Clog2.512
ΔE(2-3)=Clog39.81−Clog15.851=Clog2.512
ΔE(1-2)=Clog100−Clog39.81=Clog2.512
即ち、星の等級を上述のように定義し、各等級の明るさの差を求めると、その差が等しくなることから、物理量では100倍の明るさの違いが、人間の感覚では、等間隔に分けたように感じられるということになります。
次に、振動の場合について考えます。
振動の大きさの評価尺度には、変位、速度及び加速度があります。力は質量と加速度の積で求められるので、公害振動などの場合には、振動の大きさは加速度の問題として扱います。この際、振動の大きさは振動加速度振幅の二乗値に比例するとされています。
ところが、公害振動などの場合、評価の対象が「人の感じ方」になりますので、振動加速度振幅の二乗値をそのまま採用できません。ここで登場するのが「感覚量は刺激強度の対数に比例する」(ウェーバー・フェヒナーの法則)です。
この場合、振動の大きさ(dB)=10×log10((測りたい振動の大きさ)^2/(基準値)^2))
=20×log10((測りたい振動の大きさ)/(基準値))
基準値:振動加速度=1×10^(-5)m/s^2 となります。
また、人は周波数によって感じ方が異なるため、周波数ごとの補正を行う必要がありますが、ここでは感覚補正図の詳細については省きます。
(参考)
・ウェーバーは実験心理学や精神物理学の先駆者、フェヒナーは実験心理学や生理心理学の先駆者で精神物理学の創始者です。心理学は大きく基礎心理学と応用心理学に大別されますが、別の角度からの分類では、実験心理学と臨床心理学に大別することも可能とのことです。
・日本心理学諸学会連合のホームページには、次のように紹介されています。
日本心理学諸学会連合は、「心理学及びその関連分野の調和ある発展を期し,心理学諸学会独自の活動を尊重しそれを支援しつつ加入学会間の連携を強化して,国際的協力関係を深めるとともに,社会的諸問題の解決方策を総合的・持続的に立案・提言して,多面的な貢献をめざす」ことを目的として,1999年に結成された。2017年12月現在で53学会が加盟している。
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